おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界

 みなさんこんにちは、朱都遥未Kです。

 今回は、松村涼哉先生の ”おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界” を紹介したいと思います。

 第22回電撃小説大賞にて、大賞を受賞した ”ただ、それだけでよかったんです” その作者である松村涼哉先生の二作目です。一作目の圧倒的文章力と作品構成力から、期待高まる作品であります。

 あるSNSの書き込みが世間で話題になっている。それは、一人の高校生、大村音彦によって六人の中学生が三千万円もの大金を恐喝されたというのだ。そして今晩、音彦は中学生を半殺しにしたという。音彦を追い詰める女子中学生、榎田陽人、その正体はいったい? そしてこの事件の真実とは?

 そんな内容の小説となります。ライトノベルとしてはライトではない、がっつりとした読み応えのある作品となります。

 以下、ネタバレを含みます。



 一作目が衝撃的と言いますか、素晴らしかっただけに、若干がっかりした印象を受けてしまいます。無論、文章力があり、読んでいて気持ちのいい文章なので、十分素晴らしい作品と言えますが、一作目以上を期待して読むと、少し拍子抜けしてしまうかもしれません。

 さて、この物語の核となってくるギミック、三重恐喝、もしくは恐喝サイクルともいうべきもの、この発想には脱帽としか言えません。それによって形成されるいびつな人間関係は、その危うさと相まって、美しさすら感じてしまいます。この輪の中に入れない、正常なキャラクターである榎田陽人によって破壊されること、ストーリー運びとしてはこれ以上ない物だと思います。また、最後に陽人の一人称が「ボク」から「わたし」に変化することで、周囲と違うことを目指していた陽人に、違うことの恐ろしさを感じさせたのであろうと感じます。ストーリー運び、メッセージ性ともに高い評価のできる作品です。あの後味の悪さ、何も解決をしていないという幕引きも前作と変わらずでしたね。

 残念な点としては、音彦の性格が最後まで掴み切れなかったことでしょうか? 主人公の感性は、ある意味異常なものでありましたから、感情移入できないのは仕方ないものとしましても、読者として理解しきれなかったものがありました。もう少し言葉を足し、掘り下げるパートがあった方が読みやすかったかもしれません。また、冒頭の暴行された北崎らを介抱するシーンでの雰囲気も、読み返すとどうにも違和感がありました。恐喝者とその被害者という関係のものではないのではないでしょうか? また、タイトルとなっている言葉、「おはよう」「さよなら」というセリフですが、正直その出し方が不自然でした。全体を貫くテーマとして、また決め台詞として出したのかもしれませんが、もう少し吟味をした方が良かったように感じます。前作の「ただ、それだけでよかったんです」というセリフが自然で、かつぴったり作品にフィットしていたことから、今回は無理をしすぎたのかなあ、と感じます。

 とまあ、ダメ出しをさせていただきましたが、全体としては良作と言っていい内容かと思います。一作目ほど時間をかけることができなかったかと思いますので、少し失速した印象を受けてしまいました。是非とも次回作で持ち直してほしいと思います。

 以上で感想を終わります。

 皆さんに、よりよい読書を。お相手は、朱都遥未Kでした。


 「おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界」 松村涼哉 電撃文庫

朱都遥未K,s Storytelling

私の気に入った漫画、小説、アニメ諸々を紹介していきたいと思います。また、創作小説、日常も綴っていく予定です

0コメント

  • 1000 / 1000